1、年末調整とは
会社など給与の支払者は、役員又は使用人に対して給与を支払う際に所得税及び復興特別所得税の源泉徴収を行っている。
しかし、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額は、必ずしもその人が1年間に納めるべき税額とはなりません。
このため、1年間に源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額と1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税額を一致させる必要がある。この手続を年末調整という。注1
2、源泉徴収制度が出来た背景
我が国の源泉徴収制度は、1940年(昭和15年)日中戦争のさなかの戦時増税、大衆課税を目的に始まった。注2
源泉課税の特性としては以下の8つがある。
・ 支払者は税金の徴収に関し国家から委託を受けている。
・ 支払者が所得支払の際税金を天引徴収するものである。
・ 天引きされるが故に納税上の苦痛が少ない。
・ 他の租税に見られるように国家権力に依って強制的に徴収されるという感じが少ない。
・ 原則として申告等の手続きを要しない。
・ 徴税費が比較的少なくて済む。
・ 租税技術的に見れば単一の比例税率を以て課税する以外に途がない。
・ さらに源泉課税の所得税については人的事情を考慮することが不可能である。注3
3、最判昭和37年2月28日判決
論旨第一は、所得税法中源泉徴収に関する規定は全部憲法二九条に違反する、と主張する。しかし憲法第三〇条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」ことを宣言し、同八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定めている。これらの規定は担税者の範囲、担税率等を定めるにつき法律によることを必要としただけでなく、税徴収の方法をも法律によることを要するものとした趣旨と解すべきである。税徴収の方法としては、担税義務者に直接納入されるのが常則であるが、税によっては第三者をして徴収且つ納入させるのを適当とするものもあり、実際においてもその例は少くない。給与所得者に対する所得税の源泉徴収制度は、これによって国は税収を確保し、徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても、申告、納付等に関する煩雑な事務から免がれることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払をなす際所得税を天引しその翌月一〇日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところは全くなしとはいえない。されば源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない。これすなわち諸国においてこの制度が採用されているゆえんである。かように源泉徴収義務者の徴税義務は憲法の条項に由来し、公共の福祉によって要請されるものであるから、この制度は所論のように憲法二九条一項に反するものではなく、また、この制度のために、徴税義務者において、所論のような負担を負うものであるとしても、右負担は同条三項にいう公共のために私有財産を用いる場合には該当せず、同条項の補償を要するものでもない。(一部抜粋)
4、まとめ
源泉徴収制度も年末調整制度も上記3の理論で違憲とはいえないが、現在、進められている租税教育を考えると、税を身近な存在に今よりもするには、源泉徴収制度や年末調整を強制適用させないで、納税者の選択適用が理想的である。しかしながら、国に徴税コストが上がるとはいえ、その点は、インターネットやITがこれだけ進む事と、マイナンバー制度の導入を考えると、徴税コストはIT技術などで問題は解決すると考えられる。また、マイナンバー制度の導入により適正な申告も期待できる。よって、源泉徴収制度と年末調整制度は納税者が自分で税金の申告をする権利を有することを考えると、選択制にした方が良いと考えられる。
参考文献
・ 齋藤 貴男(1996年)「源泉徴収と年末調整」中公新書
・ 渡辺哲也『マイナンバー制度と所得税・住民税』税研170
注書き
・ 注2齋藤 貴男(1996年)「源泉徴収と年末調整」中公新書 9頁
・ 注3齋藤 貴男(1996年)「源泉徴収と年末調整」中公新書 8頁
・ 渡辺哲也『マイナンバー制度と所得税・住民税』税研170 39ページ
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